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新オレンジプランと認知症社会の到来
~国家戦略を先取りした小規模医療機関主導による地域支援

 国の推計によると、団塊の世代が全て後期高齢者(75歳以上)になる2025年には、12年時点では約462万人だった認知症の人の数は約700万人となり、高齢者の5人に1人という認知症社会が到来します。近年、日本でもようやく、2012年に厚生労働省認知症施策検討プロジェクトが今後の認知症施策の方向性(認知症施策推進5か年計画〔オレンジプラン〕)を提示し、「これまでの認知症への誤った理解と対応を反省し、正しい理解とより良いケアと医療の提供に努め、本人の意思の尊重と住み慣れた地域で暮らしていける社会を目指す」としました。
 3年後の2015年1月27日に決定された「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)は、この考え方を更に発展・深化させたものであり、“認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて” とのサブタイトルが付けられています。
 従来のオレンジプランと新オレンジプランとの大きな違いは、従来のプランが厚生労働省単独で策定されていたのに対し、新プランでは厚生労働省に加えて11の関係省庁が参加し、省庁横断的に12省庁の協力により作成されました。

認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~の概要

医療機関の主導で実現した認知症支援の2つの実例

 新オレンジプランでは7本の柱が打ち出されていますが、今回、最も重要な柱は7番目の「認知症の人やその家族の視点の重視」ではないでしょうか。政府は1から6までの柱に対して、7番目の柱を横串で突き刺す形、要するに7番目の考え方を全てに貫徹していこうとの思いがあるように思われます。7番目の「本人と家族の視点」とは言い換えると、「医療・福祉・介護資源の関与に留まらず、地域社会全体で認知症の人や家族を支えていく環境を作っていこう」との考え方に収斂されるのではないでしょうか。

 独居の認知症高齢者をコミュニティ全体で支えていくのは、地域包括ケアシステムの考え方とも通底しますが、既に全国各地で民間医療機関が主導し、地域の様々な社会資源と連携しながら新オレンジプランを先取りした認知症支援を実践する動きが数多く出てきています。

 さらに、認知症連携に関しては既存の病診連携、診診連携、医福(医療と福祉)連携、医薬連携(医療と薬局)等にとどまらず、医・警(医療と警察)連携、医・学(医療と学校)連携、医・企(医療と企業)連携等、地域の社会資源との多様な連携のカタチを模索していかなければ、「本人と家族の視点」を実現することは難しいでしょう。以下では、これらの連携に挑戦している診療所の取り組みを2つご紹介します。

①地方都市Aクリニック(無床)の「博福連携」

 Aクリニックは精神科診療に加えて、アディクション(嗜癖)※1と認知症診療に注力する専門クリニックです。開業当初から始めた重度認知症デイケアは医療保険で運営されていますが、地域に開かれた施設づくりを目指し、開業当初から様々な社会資源を生かしたデイケアを実践してきました。
 Aクリニックから車で15分程度の県立博物館。その敷地内に古民家園があります。普段この周辺には人通りが少ないため、この場所を活用して4年前から毎年1回、「認知症になっても安心して暮らせる地域づくり」のキャンペーンを実施しています。同県内の大学や専門学校、高齢者施設、子ども文化センター等に声掛けを実施。企画への賛同を得て、ペットボトルを加工したキャンペーン用の花風車を作り、1週間程、古民家園に飾り付けをします。
 また、このキャンペーン(フェスタ)期間中の1日をイベントの日にあて、Aクリニックの認知症患者がコーラスを披露しています。イベントでは他に、大学生による和太鼓や子ども達によるダンス、地元の民謡大会優勝者による民謡の披露等が行われます。一昨年からは「博福連携」(博物館と福祉の連携)の一環として、県立総合博物館が共催することになり、広報の協力を得て、認知症家族だけでなく、一般参加者も多数参加するようになりました。このイベントへの参加が、Aクリニックの重度認知症デイケア利用者にとって、大きな励みになっているそうです。

※1アディクション(嗜癖)・・・アルコールなどの依存症状

②地方都市B医院(無床)によるキッズサポーターの養成支援

 某小学校の小講堂では、休日に約20人の子ども達が参加する勉強会が行われています。最初に講師を務めるのは、校医のB先生。厚生労働省による「認知症サポーター小学生養成講座副読本」をテキストに、「認知症って何だろう?」から始まり、「認知症の症状」や「地域社会の住民が認知症の人にどのように接するか?」等について、子どもにも分かり易い語り口で説明。終了後には、子ども達にオレンジリングを渡しています。
 この活動は、認知症キッズサポーターの養成講座で、認知症キャラバンメイトが主催しており、この地域の認知症キャラバンメイトは、地域包括支援センターの職員を中心に運営されています。地域の「かかりつけ医」で小学校の近所でB医院を運営するB先生も、校医として全面的にバックアップをされています。約1時間に渡るB先生の講義が終了すると、地域包括支援センターのケアマネジャーを中心に、数名の女性スタッフが紙芝居を使って分かり易く認知症の啓発を行います。「認知症と家族の会」県支部による認知症相談コーナーも設置され、認知症家族のいる父兄からの相談にも応じています。
 B先生は地域医師会を通じて認知症サポーター養成講座に協力されています。B先生は「過疎と高齢化が進展する地域で、当診療所にも認知症の患者さんが年々、増加してきました。この地域では共働きの家庭が多いことから、夏休み中はお孫さんがお爺ちゃんやお婆ちゃんを連れて、受診して下さることも多くあります。隣近所の結びつきが強い田舎であるからこそ、子ども達に認知症のことを学んでもらい、独居高齢者に対する支援の必要性を理解して欲しいと思います。」と語られました。

 新オレンジプランでは、柱の1番目「認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進」の中に「学校教育等における認知症の人を含む高齢者への理解の推進」が謳われており、小中学校で認知症サポーター養成講座の開催が明記されています。実際に同養成講座を実施するケースは未だ少数ではありますが、AクリニックやB先生のように地域の「かかりつけ医」や医師会が主体的に関わっていくことも実現への近道かもれません。

(医療ジャーナリスト:冨井 淑夫 編集:株式会社日本経営エスディサポート)

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